こんにちは。0xMach(@0xMach)です。今回はSoul Bound Token(SBT)の基礎とその重要性についてまとめます。
【今回参考にした資料】
原文:https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4105763
Binance Academy:https://academy.binance.com/en/articles/what-are-soulbound-tokens-sbt
BAB Token:https://www.binance.com/en/support/announcement/0fe1e7c8781844e29f56cb674231dfd7?ref=AZTKZ9XS&utm_source=BinanceTwitter&utm_medium=GlobalSocial&utm_campaign=GlobalSocial
Spartan Labs:https://medium.com/@spartanlabs/the-construction-of-the-soul-part-1-the-abcs-of-sbt-5f7776a88479
目次
はじめに
先日、BinanceはKYC 検証を完了したユーザーのID資格情報として機能するSBT(BAB トークン)を導入しました。これは、BNBCHAINで史上初のSBTです。
もちろんSBTが注目されていることは知っていましたが、Binanceが本格導入したということで、しっかりと調べようと思い、今回記事としてまとめるきっかけとなりました。
BinanceはSBTの他にもL2 zkBNBを発表するなど、抜かりがない印象です。ロイさんも仰られていますが、自分もBinanceはトレンドをバシッと捉えているイメージがあります。今回の動きにより、SBTへの理解は自分の中で避けては通れなくなりました。(zkBNBも同様ですが)
Soul Bound Token(SBT)とは?
Soulbound Tokens(SBT)は、2022年5月にイーサリアム共同創業者のVitalik Buterin、弁護士のPuja Ohlhaver、経済学者で社会技術者のE・Glen Weylによって提案された概念です。原文はコチラです。
SBTはブロックチェーン技術を使って人のアイデンティティを表す譲渡不可能なトークンです。
譲渡不可能ということは、いったんウォレットに発行されると取引することができないってこと?
それだと金銭的価値がないと思うんだけどメリットあるの?
確かにNFTと比べるとSBT自体に金銭的価値はありません。NFTが資産や財産を表すのに対し、SBTは個人または法人の評判や信頼性を表すことできるという点が異なります。
SBTはどのように利用できるのか?
評判や信頼性を表すことによってどういった用途に使われるのか見ていきましょう。
SBT利用例・ビジョン
- Web3における本人確認の問題に取り組む
- クレジットスコアに基づく融資
- NFTプロジェクトにおけるアーティストの正当性の検証
- 大学が生徒に対し、必要な科目の履修証明や卒業証明として発行
- 過去の職歴や専門性を示す技能証明として機能し、就職活動に役立てる
- 賃貸契約の際の評価に用いる
- 個人の医療記録を保持するSBTを利用して診察に役立てる
- トークンやNFTのエアドロップに活用する
- トークン保有数に基づくDAOのガバナンスモデルからSBTを用いたモデルへ
Web3における本人確認の問題に取り組む
Binanceが発行したBinance Account Bound(BAB)がこれに該当します。KYCを完了したBinanceユーザーのためのデジタル検証ツールとして機能します。
クレジットスコアに基づく融資
現在、クレジットスコアは銀行や政府機関などが一元的に保有しています。SBTが強力なのは、クレジットスコアのような基本的な概念を分散化することです。分散型金融の分野では、例えばAaveのような融資プラットフォームがSBTを導入するケースを考えてみましょう。
各SBTはチェーン上で固有のアイデンティティを持ち、例えばユーザーのDeFi借入履歴により融資幅を決定するといった、クレジットスコアに基づく融資が可能になります。
NFTプロジェクトにおけるアーティストの正当性の検証
ほとんどのNFTアーティストは、自らの作品紹介や背景、理念など、OpenSeaやTwitterのような中央集権的なプラットフォームに依存しています。アーティストが自分のNFTプロジェクトとSBTをリンクさせることができれば、それらを提供するのに役立ちます。また投資家目線から言ってもSBTとリンクされていることで様々な視点から投資判断を行うことができる点も良いと思います。
大学が生徒に対し、必要な科目の履修証明や卒業証明として発行
譲渡不可能という特徴を活かして、大学が生徒に対し、授業の出席証明や必要な科目の履修証明、卒業証明として発行することができます。
過去の職歴や専門性を示す技能証明として機能し、就職活動に役立てる
過去の企業や機関から発行された公式のSBTを使用して、過去のすべての職歴と専門的な証明書を提出することができます。これは例えば就職活動で役立てることができます。
賃貸契約の際の評価に用いる
過去の家賃滞納状況などをスコア化し、賃貸契約の際の評価に用いることができます。
個人の医療記録を保持するSBTを利用して診察に役立てる
個人の医療記録を保持するSBTを使用することで、書類に記入し、病歴を確認し、電話で何度もやり取りするといった時間のかかるプロセスを代替することができます。
トークンやNFTのエアドロップに活用する
エアドロップに関しては不正の横行によりその配布方法が問題となっています。プロジェクト側からしても熱心なユーザにエアドロップを施したいという思いがあり、SBTが用いられるケースが出てくる可能性があります。
トークン保有数に基づくDAOのガバナンスモデルからSBTを用いたモデルへ
SBTは分散型自律組織(DAO)の投票に代わるものとしても提案されています。メンバーのトークン保有数に基づく現在のガバナンスモデルの代わりに、ユーザーのコミュニティとの相互作用に基づいて投票権を割り当てるSBTを発行することで、最も熱心なユーザーの投票権が優先されるといったことが可能です。
また、SBTは評判に基づく投票システムを構築するだけでなく、現在のDAOガバナンスモデルに対する最大の脅威の1つであるシビル攻撃に対する防御を改善する可能性があります。
シビル攻撃では、個人または悪質な集団がガバナンストークンの過半数を購入することによってDAOを転覆させます。過半数の投票権を持つ者は、投票案を操作し、プロジェクトの方向性を自分たちに有利な方向に導くことができてしまいます。SBTの公共性と検証可能な性質は、こういった悪質なユーザーがDAOに入り込むことを検知・防止し、さらには汚職やシビルアタックの発生を抑止するのに役立つと思われます。
SBTにおけるプライバシー
ここまでは譲渡不可能性を活かしたSBTの利用例やビジョンを見てきました。次にSBTにおけるプライバシーの重要性についてです。
オンチェーンに記録されたあらゆる関係は、参加者だけでなく全世界の誰でも見ることができます。SBTデータを相関させることで、悪意のあるユーザーが本当の身元を突き止めるといったリスクがあります。したがってプライバシーを設計に含めることで、このような悪影響を防ぐことが可能になります。
どのようなデータを非公開にするべきか?
例えば以下のような機密性の高いデータは非公開とする方が望ましいと考えます。
非公開とすべきデータ
- 個人情報
- 医療データ
- 財務データ
- レピュテーションに基づくデータ
データを非公開にする方法
では、非公開とする方法はどのようなものがあるでしょうか?
(1)データのハッシュ化
データを非公開にする比較的簡単な方法
(2)対称キー暗号化
プロジェクトがユーザーに秘密鍵を発行し、それを使ってデータを暗号化する方法。この方法は単純ではなく、ユーザーが対称鍵を秘密にする必要があり、ユーザーの SBT データを利用したい他の Web3 プロジェクトも同じ復号化処理を実装する必要がある。
(3)zk-プルーフ
zk-ProofはSBTの上で計算され、ある特性(例えば、あるメンバーシップを持つこと)を、その特性を明らかにすることなく証明することができる。
(4)オフチェーンストレージ
ERC721 NFTがデータをオフチェーンで保存する方法と同様に、データのオフチェーンに保存する。これにより、より安価で多様な種類のデータをSBTと関連付けることができる。
SBTの発行・更新・検証について
次にコンポーザビリティにとって極めて重要なSBTの属性の発行・更新・検証についてです。
SBTの発行
SBT は、プロジェクトがユーザーに対して簡単に発行することができます。これは、NFTのミントやエアドロップの方法と同様の方法で行うことができます。
SBTデータの更新
ユーザーによるデータの偽造を防ぐため、契約所有者のみがユーザーのSBTデータを更新するアクセス権を持ちます。ただし、プロジェクトは、プロジェクト自身がSBTデータの修正を提案できるようにしておく必要があります。
SBTの検証
最も重要なのは、Web3プロジェクトにとってSBTの属性がオンチェーンで簡単に照会・検証できることです。SBTがオフチェーンに格納されている場合、オフチェーンに格納されているデータの構造に基づいて、他のプロジェクトがデータを照会する方法についての標準が提案されていなければなりません。
SBTと本人確認について
最後にオンチェーンでの本人確認やユーザーのKYCデータを保存する仕組みとして、SBTを利用するケースについて考えます。これはBinanceが先駆けとなって今後普及する可能性があります。
【流れ】
- ユーザーは、検証されたKYC情報を提出します
- この情報が検証されると、プロジェクトはそのユーザーのためにSBTをミントし、ユーザーから提供された情報は暗号化され、オフチェーンに保存されます
- 他のプロジェクトも、ユーザーがKYCされ、特定の属性を持っていることを検証できますが、ユーザーに関する具体的な情報は暗号化により非公開となります。必要に応じてユーザーはこれらの他のプロジェクトに秘密を提供することができ、オンチェーンプライベート情報を読み、他のプロジェクトが検証する能力を提供することができます。
まとめ
SBTは譲渡不可能性という特徴を活かし、評判・信頼を可視化することによってWeb3エコシステムの未来を変える可能性は十分ありそうです。ただし、プライバシーの問題やユーザーから提供された情報をオフチェーンに保存する場合の考え方を統一したりと課題は残っています。
とはいえ今回の記事を作成するにあたり、SBTはアイデア次第で様々な用途に使える可能性があるなと感じました。同時にSBTの発展は追っておいた方が良さそうだと思いました。